アパレル業界では、在庫の正確な把握やスピーディな棚卸し、欠品防止がビジネスの鍵を握ります。こうした課題に対して注目されているのが RFID(Radio Frequency Identification)ソリューションです。一括読み取りによって作業時間を大幅に削減し、リアルタイムで在庫を可視化できるRFIDは、すでに多くのブランドや小売店で導入が進んでいます。
しかし、ただ機器を導入するだけでは真の効果は得られません。自社の業務に合わせて「どのように運用するか」を設計することが成功のポイントです。ここでは、RFIDを活用する前提で、導入までのステップをわかりやすくご紹介します。
RFID導入の第一歩は、現在の業務フローを正確に把握することです。入荷から検品、店頭出し、棚卸し、販売までの流れを細かく洗い出し、「どの工程で時間がかかっているのか」「どの作業で誤差が生じやすいのか」を整理します。
その上で、RFIDを導入する目的を明確にします。例えば「棚卸し時間を半分にしたい」「入荷検品の精度を向上させたい」「リアルタイムで在庫を把握したい」など、具体的な数値目標を設定しておくと、導入効果の検証やROIの算出が容易になります。
アパレルでは、既存のバーコード付きタグをRFIDタグに置き換え運用するのが主流です。価格・サイズ・商品コードなどの印字内容とICチップ内の情報が完全に一致するため、店舗や倉庫での読み取りエラーを防げます。タグの調達はRFIDプリンタを使い、自社内でオンデマンドで印字とエンコードを同時に実施する場合と、専門業者にタグを外注する場合があります。
タグ発行のタイミングは大きく「工場段階」「倉庫段階」「店舗段階」の3つに分かれます。どの工程で発行するかによって運用負荷が変わるため、自社のサプライチェーン構造に合わせた設計が必要です。また、タグの取付位置を統一しておくことで、読み取り作業の効率も向上します。

RFIDを活用するためには、タグを正確に読み取る機器と、情報を管理するシステムの両方が必要です。倉庫ではゲート型や固定リーダー、店舗ではハンディ型リーダーが一般的に利用されます。特にRFIDタグは向きや電波干渉の影響を受けやすいため、実際の現場環境で読み取りテスト(サイトサーベイ)を行い、最適な機器構成を検討します。
システム面では、RFIDデータを既存の基幹システムやPOSと連携できることが重要です。商品マスタや在庫情報と紐づけることで、店舗・倉庫・本部が共通の在庫データを参照できるようになり、補充や在庫移動の判断がリアルタイムで行えるようになります。
RFIDの導入効果を安定して発揮するには、明確な運用ルールの整備が欠かせません。タグの発行手順、貼付位置、読み取り方法、異常時の対応などをマニュアル化し、店舗や倉庫スタッフに周知します。
導入初期は、スタッフの混乱や誤操作を防ぐために、ハンズオン形式の研修を実施すると効果的です。RFIDリーダーの操作方法を実際の業務フローの中で体験してもらい、「棚卸しがどれだけ早く終わるか」「誤差がどの程度減るか」といった成果を共有することで、現場全体の理解とモチベーションが高まります。
最初から全店舗・全アイテムで導入するのではなく、まずは一部のブランド・カテゴリー・店舗で試験導入を行うのが現実的です。棚卸し時間、在庫精度、スタッフの作業負荷などを定量的に評価し、成果と課題を分析した上で本格展開へと移行します。
RFIDは一度導入して終わりではなく、タグ発行の精度、読み取り環境、データ整合性を継続的に改善していくことで、企業全体のデジタル基盤として定着します。
値札をRFIDタグに変更することで、既存業務に大きな変更を加えず導入が可能です。棚卸しの時間短縮、在庫のリアルタイム把握、入出荷ミスの削減といった効果を通じて、店舗運営とサプライチェーンの両方を効率化します。
RFIDは単なる在庫管理ツールではなく、「正確な情報で意思決定できる仕組み」をつくる技術です。まずは小さなステップから導入を始め、自社に最適な形で運用を定着させましょう。